NaDiR活動報告 尾池和夫客員教授 「氷室」にエッセイを掲載しました
尾池和夫客員教授 月刊誌「氷室」(2025年8月号)に以下のエッセイを書きました。
季語つれづれ 番外(一九一)初秋(天文)
【秋の雷】
秋の雷は激しく鳴り響くことが多く、ともなう雨量も多い。大気中の放電現象の電光が稲を実らせると信じられていたことから電光が稲妻と呼ばれ、秋の季語となった。稲光、稲の妻、稲の殿、稲つるみ、いなつるび、いなたま、などとも詠まれている。稲妻と植物の関係は今でもプラズマ物理学の研究課題である。
落雷は時速三二万キロメートル以上の速度で、その電力量は巨大である。雷鳴や稲妻に気づいたら避難することで大切である。高くて周囲に何もない建物にはたくさん落雷がある。例えばエンパイアステートビルには毎年およそ二五回の落雷がある。落雷から建物を守るための解決策は、ここ数百年変わっていなくて、一七五二年にベンジャミン・フランクリンによって発明された避雷針である。
私も地震発生と落雷の関係を研究し、大気電気の観測をしたことがある。日本地震予知学会の会長、長尾年恭さんが「先駆的研究」としてそれを紹介してくれている。花崗岩の破壊で発生する電場を測定した論文も出ている。
鴨川仁さん、加藤儀一郎さんたちの新しい電場の測定方法も開発されている。鴨川さんは私が学長をつとめたときに静岡県立大学に就任し、富士山頂で地球に関する重要な観測に情熱を注いでいる。加藤さんは、中央防雷株式会社にいて、国内外のビルなどの避雷針の設置などに活躍された方で、文献から私も多くを学んだ。
季語つれづれ 番外(一九二)三秋(天文)
【稲妻】 稲光 稲つるび
稲妻はギザギザの道筋で移動しているように描いてある。実際には組み合わせて分岐する複数のチャネルで構成されており、さまざまな方向に移動し、停止したりする。
稲妻が直線になるとは限らない理由はいくつか考えられる。大気には、さまざまな密度の空気、水のポケット、帯電した粒子が含まれている。空気中の不規則性の中から電気抵抗が最も少ない領域を探し出して、稲妻の経路ができる。稲妻は、雲と地面の間をつなぐいくつかの個別のリーダーから始まる。階段状のリーダーと呼ばれる稲妻の最初の部分は雲から伸びる。それは段階的に伝わり、前進する前に各ステップの後に一時停止する。これがジグザグの道筋の視覚的な印象になる。
稲妻が地面に向かって移動するとき、分岐して複数の道ができる。フォークのような形にできる。この分岐は大気中の電位の違いで引き起こされる。複雑な軌道ではあるが、稲妻は大気中の最も重要な電荷の差の経路を辿って、雲と地面の間の電気抵抗が、最も小さい経路をとることになっている。
高速度のカメラで稲妻を撮影した写真が公開されており、とても美しい。そしてどれをとっても同じものはない。このメカニズムの解明に貢献する論文が最近、南オーストラリア大学のプラズマ物理学者によって発表された。今、その論文を読んでいるが、まだよく理解できない。